2021年2月13日土曜日

2月書評の1





ヴィクトリアケーキに苺入りクリーム。たまりません。

◼️ドリアン助川「カラスのジョンソン」


哀しい物語。ジョンソンの飛翔。


「あん」でハンセン病患者を描き、河瀬直美監督で映画化されたドリアン助川の作品。ジョンソンと陽一の、家族を求める心。



母・里津子と市営住宅に暮らす小学生の陽一は里津子が拾ってきた怪我をしたカラスの幼鳥に、ジョンソンと名付け、可愛がる。しかし動物を飼うのは規則違反だった。やがて管理人に見つかり、部屋に踏み込まれた陽一はベランダからジョンソンを離す。


自活しなければならなくなったジョンソンは様々な困難に遭うが、緑光、と自分が名付けた羽根の美しいカラスの導きで群れに迎え入れられ、成長する。そして陽一や里津子を見つけ、様子を伺うようになる。



市は増えすぎたカラス対策として大規模な駆除を始めた。緑光との間に産まれた雛を育てていたジョンソンの巣にも災厄が降りかかる。一方、陽一は里津子が逮捕され、孤独となるー。



カラスの世界と人間の住む現実。追い込まれていく両者が邂逅することはない。


ジョンソンが生まれてから、また陽一たちの庇護を離れてから、研究されたカラス目線での行動や成長が着実に読み手に愛着を植え付ける。自然が織りなす様々なシーンや構造物の醸し出すさまが神々しいまでにファンタジック。かつまた目線を変えてみたら、飛ぶことが出来たらそうなんだろうという憧憬をも掻き立てる。


人間世界の方は常にとげとげしく、また著者の特徴である、組織に逆らえない人や戸惑う教師の姿など、煮え切らない、さりげない部分も挿入される。



美しさと温かさ、相反する冷たさと狭量さ、抗えない暴力的な強さ。



ああ、温もりが必要な時に会わせてあげられれば、と胸がしめつけられるが、ちと悪役とのコントラストがはっきりしすぎているきらいはあり、冷静になってしまう。


酷な現実の物語だからこそ、ジョンソンの飛翔が強く印象に残るのだろうかー。




◼️今村昌弘「屍人荘の殺人」


「そ、そうきたか」でした。アヤツジの若い頃を思い出しました。ネタバレ厳禁もの。他聞にもれず、隔靴掻痒の書評です。


これはおもろいわ!と読んでて盛り上がってしまう作品があります。私の経験で言えば藤原伊織「テロリストのパラソル」がそうだったなと思います。「屍人荘の殺人」は久々にその感覚を追体験させてくれました。



昔、「クライング・ゲーム」というイギリス映画の佳作がありました。ネタバレ厳禁で、確かに見る前に分かっちゃったら面白くないネタが仕込まれてました。「喋らないでください」はキャッチコピーでもあった記憶があります。



「屍人荘の殺人」はミステリ好きの先輩が「読んだ〜?」といかにも話をしたそうに振ってきてたけども映画が軽そうだということで敬遠してました。侮ってた。たしかに面白い。で、「クライング・ゲーム」の3倍くらいの強さでネタバレ厳禁だと思いました。1/3くらいのとこで、「そ、そう来たか」という感覚を味わう醍醐味を失わないように、痒いとこに手が届かない書評です。


あらすじは簡単に。


神紅大学映画研究部の夏合宿がOBの親の持ち物であるペンションで行われた。サークル員以外で一緒に行ったのはミステリ愛好会会長の明智恭介と、ワトスン役の葉村譲、剣崎比留子の3人。剣崎は警察すら手を焼いた難事件の数々を解決に導いた探偵少女。「今年の生贄は誰だ」去年の合宿後、自殺者が出ており、映画研究部には脅迫状が届いていたー。



どうも部長がペンションを無料で貸してくれるボンボン先輩の親の有名会社に就職したいらしく、女の子を連れてこい、という命令に逆らえないらしいんですね。自殺者の理由も想像できます。ペンションは大きな湖の近くにあり、そこでは5万人規模のロックフェスが開催されていた、そして闇の機関の者たちが・・


物語は突然動きます。


「ほ、ほお」


となって本格ミステリ定番の孤立ものに突入します。部屋割り表もついてます。「そして誰もいなくなった」よりも、新本格の扉を開いた記念碑的作品「十角館の殺人」を設定的に思い出させます。



ただちょっと違うのは、アガサも十角館も次々と人が殺されていく、動機も殺人の順番も、その中にいるはずの犯人もわからず進んでいきますが、この作品はそうではない部分もあること。



また殺人方法が極めて特殊で、混迷を深めるもとになっていること、などですね。



意表を突かれた面白さだけでなく、細かいところまで謎解きの網の目が敷かれているのには感服。殺人方法も納得感が深く、やられた、と思います。トリックも本格派。独特の死生観も、アニメっぽいやや独善的な行動の流れも、ちょっとした新感覚を感じさせます。シリーズ継続を匂わせて、お終い。



探偵役の剣崎比留子はこれも他聞にもれず美少女、グラマラス、そしてちょっと天然でスキが多い。ちゅーしてあげる、とか軽く言っちゃいます。他作品の例を挙げるまでもなく、ライトノベルとミステリーは相性が良い。ミーハーな志向ですが、このノリもOK、ありかなと。凄惨な事件との噛み合いが微妙ですね。



そして、犯人が殺人の模様を語る時、冷静さと、狂気の感覚のはざまが・・心地よく響いちゃいます。ここは、大きな魅力として特筆してもいいかと思いました。



最近は巣ごもりの影響でよく音楽をスマホ経由で聴きます。YOASOBI「夜に駆ける」が好きです。小説世界を曲に落とし込んだもので、元になった短編を読みましたが、あまり飲み込めるネタではない、しかし音楽はいい、「屍人荘」にも似たものを感じたような気がします。



興奮の後には冷静が待っているもの。特にミステリは著者が理想とする流れに合わせてはめ込んでいくのが見える場合が多く、もひとつ納得できないこともよくあります。動機の描きこみも弱いかな。ましてデビュー作。


今回の総括としては、おもしろい!と感じさせられたことは事実で、私的には重きを置こうと考えます。新本格を手本にして育った若い感覚の先々を楽しみに、次も読もうと思います。

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