さて、昨年は角田光代「八日目の蝉」に、読了後しばし呆然とするほどの打撃を受けた。年末年始に、同じ角田作品「ひそやかな花園」を人に借りて読んだが、正直消化し切れなかった。八日目の蝉も、誘拐犯に育てられ実の家族のところに突然戻った少女の心情は計りかねたが、ひそやかな花園は、特殊過ぎる設定であることや、また登場人物たちの、ほぼ一様に不幸な人生の噛み合いもしっくり来ず、もひとつ飲み込めずのままおわってしまった。誰にでも花園はあるのではと思う。私にとってはもはや名前も思い出せない従兄弟たちと、母の実家の前にあった寺で遊んだのがそういったものだが、誰もと似たような体裁を取りながら、その結びつきの意味合いが、あまりに深く複雑で強固な異質感を放つ。そこは狙いかとおもうが、ついていけなかった。
次は同じく角田光代の直木賞作品「対岸の彼女」こちらのほうは、子持ちの主婦が、仕事を持つことでなにか殻を破ろうと苦闘するという、等身大の物語がベースになっており、地味ながら小気味よく、共感できる気がする。そこに主人公ではない雇い主の過去の物語が絡むという、不思議めの構成である。物語の中盤で、主人公が「こんちくしょう、こんちくしょう」と自転車を扱ぐところが、うまく行かない現実を象徴していて、心に残る。実は、あまり衝撃を与えるものではない過去のエピソードや、おそらく女性特有の友人に対するメンタリティ、角田作品にはろくなオトコが出てこないことや、登場人物ほかの若干の不自然さ、都合よさ等であまり心動かされたわけではなかったのだが、あの「こんちくしょう、こんちくしょう」がいつまでもみずみずしく気持ちを暖かくし、実は現代サラリーマンへの応援歌なのではと思えるから不思議である。
最後は「球形の季節」恩田陸は、私に取ってニクい女性で、期待して買ったのに、外されることもあるのである。「ユージニア」はすごい期待を持ち途中まで面白く読み進められたのに、最後で外され、どうした推理作家協会賞!と思ったものだ。「真昼の月を追いかけて」も、結末があまりに弱々しい。「六番目の小夜子」「ネバーランド」は好きだが、「夜のピクニック」は、私に言わせれば、恩田陸はもっと彼女の色が深く強い作品を書くはずだ、とうなるくらい表層的すぎて面白くない、そのテクニックだけなら飽きた、という感じだった。しかし、期待をし、ここまで気にかかる作家も珍しいので、年頭に「恩田陸完全制覇」を誓い買ったのがデビュー第2作「球形の季節」なのである。感想は・・良かった・・だった。やはり学園ものファンタジーは本領発揮というところである。不思議すぎるところや最後の仕掛けの結末を見たかったな、という不満もあるが、丹念な高校生の心理描写の内容と不思議さの方向性やエンタメさが、ぴたりと来てしまった。私にとっては傑作の部類に入る。これだから、恩田陸はやめられない。
0 件のコメント:
コメントを投稿